病院薬剤師の業務的書付

中小病院薬剤師の仕事関係メモ。まずは「はじめに」の記事をご覧ください。※薬物治療に関する個人的なご相談は受けません。

NaClの経管投与で、消化性潰瘍になるのか?

【個人的背景】
脳梗塞が主病の経管栄養患者において、低Na血症の補正のために塩化ナトリウム(NaCl)を経管投与する指示が出ることは、ままある。
その際「消化性潰瘍が不安」として、医師から用量について相談を受けることがあった。
果たしてNaClの経管投与で消化性潰瘍になることはあるのか?
症例があるなら、どの程度の用量だったのか?ほかに既往はあったのか?
各種資料を当たった結果、下記症例報告にたどり着いたので読んでみる。
 
【論文タイトル】
経空腸瘻投与の高張食塩水が原因と思われた限局性小腸炎の1例
 
【論文内容まとめ】
79歳男性。脳梗塞、嚥下障害、上腸間膜動脈性十二指腸閉塞症にて空腸瘻造設。
造設後は、空腸瘻からNaCl1gを20mlで希釈し、3回/日投与していた。
NaCl投与開始後6週で腹痛があり、消化管穿孔が疑われ手術となった。
結果、空腸瘻カテーテル周囲の腸管に限局性腸炎を認めるも穿孔は認めなかった。
カテーテルによる炎症は考えにくく、NaClの高浸透圧によって空腸内腔に水を引きすぎ、腸管の細胞内脱水が起きたため、炎症が起きたのではないかと推察された。
 
このことから血漿浸透圧に近い、NaCl 1g/100ml以下の濃度での経管投与が推奨される。
 
【論文を受けてどうするか】
当院では現在100mlで希釈して投与しており、希釈水量については問題なし。
用量提案時は(血清Na値と要相談ではあるが)
最大でもNaCl 3g3×までで開始すると、消化器への影響が少なくなる、かも。
 
【疑問点】
・上腸間膜動脈性十二指腸閉塞症は炎症に影響しないのか?
・当院は経鼻胃管での経管栄養法がほとんどであり、高浸透圧の食塩水が胃に入るのと空腸に直接入るのとでは、影響に差があるのではないか?
・2007年のこの論文以降、報告あるのか?
 
特に最後の疑問、気になっている。
 
ちなみに当院は薬(簡易懸濁)→栄養剤→フラッシュ(水)→NaCl+水100mlで投与しています。
(栄養剤に混ぜて塩析起こしてチューブ詰まると嫌だし、空腹状態にNaCl行きたくないとのNrsサイドの主張もあり)
 
何が正解なんでしょうね?
 
【参考資料】
薬剤投与から見たPEG 倉田なおみ
静脈経腸栄養 Vol.29 No.4 2014
 
経腸栄養での管理 丸山道生
静脈経腸栄養 Vol.24 No.3 2009